誰も教えてくれない上場インターネット企業のファイナンス比較 (後編)

こんにちは。じげんCFOの寺田です。

前編では、上場インターネット企業3社のファイナンススキーム、具体的には新株予約権の概要(行使期間、割当先、資金使途等)や発行条件(行使価額、行使条件等)、発行規模(希薄化率、資金調達額)について比較しました。

ー前編のおさらいー

「金融商品としての新株予約権」の価値を示す「株価に対する1株当たり発行価額比率」はマイネット>エボラブルアジア>じげん、でしたが、これが割当先である証券会社にとっての価値、つまりざっくり言ってしまえば、予約権の行使による新株発行の蓋然性を暗示していました。

主には下限行使価額の設定がポイントで、新株予約権発表日の株価終値に対して、マイネットは30%以上低い水準、エボラブルアジアはほぼ同水準、じげんは初回号のみ10%低い水準で他の回号は大幅に高い水準を設定していたことが、行使蓋然性の差異に繋がっていました。

こうした行使価額の設定には、そもそもの資金調達使途(マイネットは実施済みM&Aの借入金返済、エボラブルアジアは将来のM&Aとブランディング投資、じげんは将来のM&A)が背景にあると推察しました。

また、希薄化率はマイネット>エボラブルアジア>じげんの順で大きく、マイネットが20%超で最も高く、じげんが10%弱で最も低くなっていました。一方、エボラブルアジアとじげんではいわゆるハイアップ型のスキームを採用していることもあり、資金調達予定額が100億円を超えていました。

さて、3社のエクイティファイナンススキームの発表および実施後、株式市場はどのように反応したのでしょうか?
なお改めて、当記事は各社のスキームの優劣を論評したり、特定の会社への投資判断を推奨したりするものではありません。

ー短期的には希薄化懸念を成長期待が上回る?ー

エクイティファイナンスとは新たに株を発行して資金を調達することを指しますが、その資金を有効活用できなければ、企業価値(分母)は変化せずただ株数(分子)が増えるだけなので、1株当たりの企業価値は希薄化します。資金使途が不透明な場合等、株式市場から評価を得られないエクイティファイナンスを発表すると、その企業の株価はほぼ想定希薄化率と同程度下落することも少なくありません。

3社のエクイティファイナンス発表直後の株価は下表の通りです。新株予約権の割当日は発表日の15日後と金融商品取引法で定められていますが、その2週間余りで3社とも株価は下落しています(エボラブルアジア▲1.8%、マイネット▲12.8%、じげん▲5.0%)。

ただし、東証1部上場のエボラブルアジアはTOPIX、東証マザーズ上場のマイネットとじげんは東証マザーズ株価指数をベンチマークとして市場変動の影響を除いてみると、じげんが+6.2%のアウトパフォーム、エボラブルアジアが▲2.7%のアンダーパフォーム、マイネットが▲8.9%のアンダーパフォームとなります。

株価がアウトパフォームしたじげんだけではなく、エボラブルアジアやマイネットのアンダーパフォーム率も希薄化率(エボラブルアジア12.4%、マイネット21.0%、じげん9.4%)より小さい水準で留まっており、調達資金による成長投資への期待が短期的な希薄化懸念を上回ると、一定程度株式市場が判断した可能性が高いことが分かります。

ーその後の株価の動きー

更に、発表から3ヶ月が経過した時点の騰落率を見ると、マイネット、じげんともに株価は上昇し、ベンチマークである東証マザーズ株価指数に対しても大きくアウトパフォームしていました(エボラブルアジアは3ヶ月未経過のためデータなし)。

2社ともに割当日の直後から新株予約権の行使による資金調達が進んだため、成長投資実行への期待値が切り上がり、株価が上昇して更に行使が促進されてまた期待が高まり、といった好循環が発生していた可能性が伺えます。

なお、ご参考までに発表日から直近の9月26日までの騰落率(エボラブルアジア▲19.0%、マイネット▲26.5%、じげん+32.4%)も記載してみましたが、特にマイネットやじげんではエクイティファイナンスからかなり時間が経っているので、業績動向や他のニュースフローの影響が大きいと考えるべきでしょう。

以上、前編と後編とに分けて上場インターネット企業3社のファイナンススキームの詳細について記してまいりました。

ここからは一般論として、資本政策を立案する際の留意事項を記します。

ー資本政策を立案する際に確認すべきことー

上場企業の経営者や財務担当者のもとには、様々な証券会社がファイナンスの提案にやって来ます。そして当然に、それはディールを実行して収益を獲得するための営業行為です。

しかし、発行体である企業と引受先である証券会社にはファイナンスリテラシーの非対称性が存在することがほとんどで、自分たちが何を営業されているのか把握していない発行体企業が散見されます。また、実は証券会社の担当者も、その取引を実行した場合の発行体企業への影響を十分に理解していることは決して多くありません。

「当社は販売網が強いので長期投資家に株を販売でき、値崩れのリスクが低いです」
「過去にこのスキームでファイナンスした企業の株価は大きく上昇しました」
「ゼロクーポン債だからコストは掛からず投資家からも喜ばれます」

こうした証券会社からの営業文句を鵜呑みにしてファイナンスを発表したところ、株式市場が事前の想定と大きく異なる反応を示して戸惑った、という企業の話を時々耳にします。これはひとえに、発行体企業側のファイナンススキームへの理解が不十分だったということでしょう。

私は証券会社の方とエクイティファイナンスについて議論する際、下記の内容を質問、確認するようにしています。

(1)発行体企業、証券会社、株主、債権者とで利害が合致する点と相反する点はどこか?
(2)資本コストに見合うリターンを生む財務戦略か?
(3)客観的に観察可能なファクトに基づく説明がなされているか?

(1)が最も重要な確認事項だと個人的には考えています。全てのファイナンスは乱暴に言ってしまえばお金の移動ですから、ゼロサム的な要素が少なからず存在します。それぞれの条件の有無や度合いによって各ステークホルダーに及ぶ影響を把握することが、全体像の網羅的な理解への近道となります。

(2)は証券会社との議論の中でブラッシュアップする事項です。いわゆるエクイティストーリーに近いですが、より定量的に、資本市場のプロフェッショナルの意見も聞きながら考えをまとめていきます。財務経理機能と広報IR機能が別れている企業の場合、広報IR担当者は最低限この部分についてよく理解し、対外的な説明責任を果たす必要があるでしょう。

(3)はパートナーである証券会社の選定基準に繋がる質問事項です。例えば、発行体企業にとって最大の関心事の1つはファイナンス後の株価動向ですが、過去事例に関して客観的なファクトを示してくれる証券会社は驚くほど稀です。不確実性の高い資本市場と向き合う中で、ファクトに基づく意思決定を実施することは極めて重要ですので、同じ意識を持ってプロジェクトを進められるかを確認します。

ー最後にー

以上、個別具体的な論点から一般論までつらつらと書いてまいりました。

コーポレートガバナンスコードやスチュワードシップコードの浸透に伴い、発行体企業と資本市場とのコミュニケーションは日本において着実に改善していると思います。その一方で、開示姿勢やガバナンス以外の財務戦略、事業戦略に関しては、まだまだ情報の非対称性が存在しているように感じます。

特に数年以内に上場した新興企業においては社内にナレッジが蓄積されておらず個別にご相談を頂くことも多いので、このようなマニアックな記事を作成することと致しました。少しでも情報格差を埋める一助となれば幸いです。

株式会社じげん 寺田