海外投資家の視点(前編)

こんにちは。じげん経営戦略部長の寺田です。

遅ればせながら、じげんでは今月より英語IRサイトを開設しています。
これまでは社内リソースの観点から海外向けの情報発信にはほとんど手が回っていませんでしたが、時価総額の増加に伴って流動性が向上していることや将来的な資本政策において重要な要素となり得ることから、本年より海外IRを強化します。2月10日の第3四半期決算発表後には、1週間かけて香港、シンガポールの機関投資家を訪問する予定です。

ところで、経済メディアや証券会社のレポートを読んでいると、「外国人投資家」、「海外投資家」という表現をよく目にします。証券取引所のデータによれば、2015年度において外国法人は我が国の上場企業株式の29.8%を保有しており、売買代金のシェアは70%超と言われています。当社でもまさに、IRを強化して彼ら彼女らとの接点を増やそうとしているわけですが、「外国人投資家」、「海外投資家」と一括りにしてしまってもよいのでしょうか?

外国人保有比率

海外投資家の投資戦略は、ロングオンリーとロングショートに大別されます。実際には他にも、グローバルマクロやイベントドリブン、ディストレスといった様々な手法があるものの、日本企業がIRで接する海外投資家の90%以上はロングオンリーかロングショートと考えてよいでしょう。

ロングオンリーとは、その名の通りロング(買いポジション)のみでポートフォリオを構成して保有株式の値上がり益を狙うオーソドックスな手法です。○○投信、△△アセットマネジメントといった国内機関投資家も基本的にはロングオンリーです。ただし、日本株のみで運用していることが多い国内投資家に対して、海外投資家は香港株やシンガポール株、豪州株を含むアジア全体、または米国株や欧州株を含むグローバル全体を対象としており、担当者あたりのカバレッジもより広範囲にわたります。ブラックロックやフィデリティといった超大手の運用会社は東京にもオフィスを構えていますが、海外ロングオンリー全体としては本拠地がロンドンやボストン、ニューヨークに置かれていることが多く、東京オフィスや日本株専任担当者を擁している例はごく稀です。

このためロングオンリーの海外投資家は、調査対象企業のビジネスモデルや業績推移はもちろん、日本の政治経済や商慣習に到るまで、前提知識が担当者によって大きく異なっており、初めてIR面談をする際にはその辺りからすり合わせていく必要があります。私も前職で不動産業界担当のセルサイドアナリストを務めていた際、「なぜ人口が減っている日本で新築住宅や新築オフィスが建てられているのか?なぜ30年しか築年数が経っていない建物を取り壊してしまうのか?」という論点だけで60分のミーティングが終わってしまったことや、日本の不動産市場について一通りプレゼンテーションをした後で「ところでさっきから言っているOtemachiって何?」(もちろん大手町のことです)と聞かれて東京の地理をGoogle Mapで延々と解説することになったことがあります。日本では常識となっている事象の背景を英語でうまく説明できなかったり、事前に相手の理解度を確認しなかったせいで時間を無駄にしたりと、悔しい思いをしたものです。

また日本株や日本市場への見識の有無に関わらず、ロングオンリーの海外投資家はマクロストーリーとの連動やビジネスモデルのシンプルさ、及び定量的、形式的な基準を重視して銘柄選別をしている場合が圧倒的に多いです。上場企業の数は日本だけでも3,500社以上ですが、アジア、グローバルと対象を広げると文字通り桁違いの母集団となります。調査効率を保つため、また社内での意思決定をスムーズに進めるためにも、分かりやすい成長市場に身を置いていたり、世界共通の財務指標が優れていたりする企業が選ばれやすいのです。
以下は、前職や現職で私が実際に聞いたことのある「足切り基準」の例です。

・1日の売買代金が10億円以下の銘柄には投資しない
・シナジーのない事業を3つ以上手掛けている銘柄には投資しない
・ROEが10%以下の銘柄には投資しない
・配当性向が20%以下の銘柄には投資しない
・CEOかCFOがIRの個別面談に出てこない銘柄には投資しない
・社外取締役が2名以上いない銘柄には投資しない

これらに対し、「今はシナジーが少ないが、将来的に化ける可能性が大きい新規事業である」、「目の前に魅力的な事業機会が多数広がっており、配当よりも成長投資を優先したい」、「過去の歴史から財務戦略には保守的にならざるを得ず、ROEは構造的に低くなりやすい」といった言い分が事業会社にはあるかと思いますが、何万社の中から投資先を選ばないといけない海外投資家はそれらをいちいち聞いていられないため、多くの会社が説明の場を与えられることなく足切りされていくことになります。

世界を代表するような有名運用会社に大株主になってほしい!と夢見る経営者やIR担当者もいらっしゃいますが、現在の事業規模や経営戦略を自己分析したうえで、現実的な投資家構成を検討してみることも必要かもしれません。もちろん正攻法として、ロングオンリーの海外投資家のお眼鏡にかなうような財務目標を設定したり、透明性の高い組織体制を構築したり、抜本的な事業ポートフォリオ、バランスシートの再構築を断行したりといったことも考えられるので、経営方針としてどちらが絶対的に正しいということはありません。重要なのは、投資家属性ごとの特性をよく理解して、自社の長期的な戦略に沿ったコミュニケーションをとることです。

冒頭にも記した通り、じげんでは今後、海外IRを強化していこうと考えています。そのためだけに投資戦略や事業戦略を含む経営方針を変えることは決してあり得ませんが、当社や日本市場に馴染みのない投資家の方々にもご理解頂けるよう、分かりやすくシンプルな資料開示等を心がけていくつもりです。

さて後編では、ロングオンリーと並ぶ主要な投資戦略であるロングショートを採用している海外投資家の視点について記します。

株式会社じげん 寺田