海外投資家の視点(後編)

こんにちは。じげん経営戦略部長の寺田です。

前編では、海外投資家、特にロングオンリーと呼ばれる運用会社の考え方について詳述しました。
後編では、ロングオンリーと並ぶ主要な投資戦略であるロングショートを採用している海外投資家の視点について記します。

ロングショートとは、ロング(買いポジション)とショート(売りポジション)、例えば割安株と割高株、割安株と指数を組み合わせ、株式市場全体の上げ下げではなく個別銘柄のバリュエーション修正等による利益を狙う、ヘッジファンドの代表的運用手法です。日本株を対象とするロングショートの海外投資家の場合、香港、シンガポール、ニューヨークが主な拠点で、海外ロングオンリーと比べると日本人や日本語に流暢な方が日本株専任担当者、または日本株メインのアジア株担当者として運用している場合が一般的な印象です。当社でも2月中旬に香港、シンガポールへの投資家訪問を予定していますが、場所柄か、アポイントを頂いている方の属性は運用手法別では約70%がロングショートヘッジファンド、母国語別では約80%が日本語スピーカーです。

運用会社としての平均的なポジション期間はロングオンリーと比べて短く、担当者は投資銀行、証券会社の東京オフィスや国内機関投資家の出身が中心で各事業会社、個別銘柄への理解も深いため、IR面談においては足元の細かい業績や短期的なコーポレートアクションが話題の中心となることが大半です。銘柄の守備範囲は広く、ROEが低かろうが株主還元が一切なかろうが、上がりそうな会社で最低限の売買代金さえあれば買いポジションを取ってくれます。

事業会社の経営者やIR担当者の中には、少しでも弱みを見せたらすぐに売り叩かれそう、短視眼的な質問ばかりで自分たちの想定している時間軸との乖離が大きい、等の理由でヘッジファンドやロングショート投資家を毛嫌いしている方も散見されます。特に最近は、シトロンやグラウカスといった海外で名の知れた「空売りファンド」が日本での活動を本格化させ、実際に株価下落に繋がっている例も見られることから、ヘッジファンド全体に対して警戒感が強まっているように思われます。

ロングショート戦略をとる投資家が長期で安定株主となることが稀なことは事実ですが、その分売買頻度も高く、貴重な流動性を提供してくれます。国内外のロングオンリーを含むほとんど全ての機関投資家は、流動性がない会社には投資できません。例えば5億円分の株式を買いたいと思っても、1日の売買代金が1億円しかなければ取りたいポジションを取るのに5日もかかり、買い集めているうちに株価を押し上げてしまい、取得原価が想定外に膨らむリスクも高まります。足の短いロングショートの投資家に売買してもらうことで、結果的には他の投資家層にもリーチを広げることができるのです。

また、中長期的な戦略をしっかりと社内で確立できている企業ほど、普段の業務執行とは異なる視点で短期業績について厳しく指摘してくれる投資家との議論を、経営の緊張感を保つ良きベンチマークとすることもできるのではないでしょうか。ロングショートの海外投資家は運用パフォーマンスと収入や雇用がほぼ直結していることが多く、多額の自己資金を自ら運用するファンドに投資していたり、少しでもマイナスの成績を出すと即解雇されたりといった例もあります。その分銘柄選別への「本気度」も高く、事業会社よりも豊富な業界知識や投資銀行家、会計士といった専門家よりも深い財務知識をお持ちの方も多くいらっしゃいます。

私も前職で社会人2~3年目の頃、いくつかの銘柄について複数のロングショートの海外投資家から膨大な量の質問を頂き、リクエストに応えるために寝る間を惜しんで調査を進めてレポートを書き上げ、それを引っ提げて徹底的に議論を重ねたことで、アナリストとして一皮むけることができました。特に当時は2008年に発生した世界的な金融危機の傷が癒えていない時期だったこともあり、単なる業績予想や産業分析だけではなく、ファイナンススキームや会計スキーム、四半期毎のバランスシートマネジメント等への理解が深まり、事業会社における財務やM&Aの責任者という現在の職務にも大いに役立っています。

株式市場ではお金さえあれば誰もが平等に上場企業の株式を売買できるわけで、ロングショートの投資家に会わなければ空売りされる可能性が減るかといえば、決してそんなことはないでしょう。むしろ、どんな投資家にも臆せず、実績と自信を持ったCEOやCFOが論理的かつ明瞭に自社の魅力をプレゼンテーションできる会社ほど、ショートポジションを取りづらい銘柄はありません。確かに、膨大な情報の海を漂う市場参加者は事実と異なる認識を持っていることも多いですが、対話を避けていては誤解を解くこともできないのです。

個人的に事業会社の経営者やIR担当者の方々には、フェアディスクロージャーはルールだからという消極的な理由ではなく、経営へのフィードバック機能を果たす建設的な議論のため、海外ロングショート投資家と積極的にコミュニケーションを取ることをお薦めしています。前職時代、IR面談で事業会社の話をニコニコ聞きながら社長をひたすらベタ褒めし、アレンジした証券会社のアンケートにも「強く買いたい」と回答していたのに、後でBloombergを調べたら面談後に容赦なく売り浴びせていた、なんて方(とある国のロングショートファンドマネージャー)もいらっしゃいましたが…。

株式会社じげん 寺田