IFRS導入について(その1: のれんとM&Aと新興市場)

こんにちは。じげん経営戦略部長の寺田です。

本日の発表の通り、じげんは2017年3月期決算から国際会計基準(以下、IFRS)を任意適用し、2017年3月期有価証券報告書(6月下旬に公表予定)よりIFRS に基づいた開示を行うことを決議いたしました。

2017年4月現在において、IFRSの適用を決定した143社目の東証上場企業となるようです。

日本取引所ウェブサイトより転載

本日から何回かに分けて、IFRS移行に伴う主要論点や導入決議に到った経緯、及びプロジェクトを推進した社内体制についてお話しします。

-のれん償却の是非-

日本基準とIFRSの大きな違いの1つに、のれんの償却可否に係る論点があります。

M&Aを実施した場合、日本基準では取得価額と対象企業の実質純資産の差額をのれんとして計上し、20年以内の期間において定額法等によって規則的に償却する必要があります。これは、純資産を上回る分の株式取得額を対象企業の超過収益力とみなし、超過収益力は時間の経過とともに減価していくとの考え方に基づいています。
一方、IFRSでは定期的なのれんの償却は認められていません。その代わりに、毎年必ず減損テストを実施しなければならず、減損テストの過程で算出される対象企業の公正価値(回収可能額)が簿価を少しでも下回っていれば、即時に減損損失の計上となります。キャッシュフロー見通しが当初想定を(公正価値が簿価を)著しく下回らない限り減損テストの対象にすらならない日本基準とは対照的です。

それぞれの会計処理には一長一短がありますが、M&Aの実務を担当している身としては、実態に近いのはIFRSではないかと考えています。
例えば2014年9月からじげんグループ入りしているリジョブの株式取得額は1,980百万円で、取得前の直近期である2013年9月期の売上高は895百万円でしたが、有価証券報告書にも記載の通り、2016年3月期の売上高は1,910百万円、経常利益は799百万円でした。2017年3月期業績は未開示ですが、連結業績と同様に増収増益を続けています。

リジョブのようにM&A後の業績が大きく伸張しており、取得額に対して十分な利益を計上している企業の「超過収益力」が減価しているというのは考えづらいことです。著しい低下以外の公正価値変動を考慮せずに定期償却を義務付け、償却年数や償却方法はまちまちな日本基準よりも、毎期必ず公正価値を算出して「超過収益力」に変化がないか判定するIFRSの方が、フェアで恣意性も低いように思われます。

-会計基準がM&Aや新興市場の動向にも影響?-

また、証券会社でM&Aを手掛ける投資銀行部門、及びベンチャーキャピタルの方々とディスカッションをしていると、日本基準で義務付けられているのれん償却がグローバル企業と比較して日本企業のM&Aが増加しない一因になっている、との愚痴を耳にすることがあります。

確かに、キャッシュフローに影響を与えない会計上の要因とはいえ、経営者やM&A担当者にとって利益を圧迫する償却負担の多寡が投資の意思決定を左右することは少なくありません。特に設立間もないスタートアップ企業の株式を取得する際は取得額と純資産の差が開きやすいため、のれんの償却可否によってその後の連結業績は大きく異なることとなります。

IFRSだけではなく米国会計基準(US-GAAP)でものれんは非償却となっていますが、GoogleによるYouTubeやFacebookによるWhatsApp、instagramといった象徴的なM&A案件に限らず、米国では上場企業によるスタートアップ投資が非常に活発で、ベンチャー企業を支えるリスクマネーが潤沢だからこそ、未上場でも巨額の資金調達を行って積極的にスケール拡大を追求できるユニコーン(未上場ながら株式評価額が$1billionを超える企業)が生まれやすいと言われています。
一方の日本では、スタートアップ企業のエグジット(創業者やベンチャーキャピタルによる投資資金の回収)が上場企業による巨額のM&Aという形でなされる例はほぼ皆無で、マザーズやジャスダックといった新興株式市場へのIPOか、数億円から数十億円台前半でのM&Aが主流となっています。

一時期、上場直後に業績予想を下方修正する新興企業を「上場ゴール」と批判する風潮が高まりましたが、実際には上場による売却益の確保のみを目的とするよこしまな考えの経営者はごく稀なはずです(そんな考えで上場まで辿り着けるほど簡単ではありません)。日本のベンチャー企業はある程度の規模になるとリスクマネーの供給者が少なくなり、更なる事業拡大のために資金を調達するには、業績のボラティリティが依然として高い事業フェーズにあるにも関わらずIPO以外に選択肢がなかった、というのが実情ではないかと思います。

のれんの償却費に縛られずに上場企業が大胆な投資決定をできるようになれば、日本のM&A市場にも新興株式市場にも、何らかの変化が訪れるかもしれません。

-経営の質の改善-

話がマクロ寄りにだいぶ逸れてしまいましたが、じげんでは決してのれん償却負担の軽減を主目的にIFRS導入を決議したわけではありません。むしろ、毎期減損テストを行うより厳格な運用とすることで、M&A投資やPMIにおける規律向上、及び事業責任者のバランスシートへの意識付け強化を狙いたいと考えています。

次回の記事(その2)では、IFRSへの導入が管理体制を中心とした社内にどのような影響があるのか、という点について記します。

何卒宜しくお願い致します。

じげん 寺田