IRの真の目的とは?

こんにちは。じげん経営戦略部長の寺田です。

経営戦略部が担う業務の1つに、機関投資家および個人投資家への情報発信、いわゆるIR(Investor Relations)があります。
コーポレートガバナンスコードやスチュワードシップコードの浸透に伴い、日本でもIRの重要性は徐々に認識されつつあるようです。
しかし、私が前職でセルサイドアナリストをしていた際(ほんの数ヶ月前です)には、多くの投資家、特に海外投資家から、「日本企業はまだまだIRの姿勢が不十分」との声が聞かれました。

じげんと同じインターネット領域で事業を展開する各社の情報開示を拝見すると、IRへの取り組みにはかなりばらつきがあるようです。
これは、IR活動によって得られるメリットやIR活動の目的の考え方に差があるため、と推察されます。特にベンチャー企業やインターネット企業はコーポレート部門の人材層が薄くなりがちなので、貴重な経営資源である時間と費用を投入するには、明確なメリットや目的が必要、ということなのでしょう。
個人的には、IRの目的は(1)経営陣へのフィードバック、(2)資本コストの最小化、であると考えています。
これに加えて、じげんではまだまだ売上構成比が小さいですが、BtoC事業を主力とする企業では、(3)個人投資家を中心とする顧客基盤(ファン層)の形成、というのも主目的となり得ます。

(1)はよく言われている通りですが、重要なステークホルダーである投資家の意見が、IRを通じて、時には経営陣に対して直接伝えられることで、経営へのモニタリングが効き、最適な意思決定が促される、という考え方です。
当社でも、社長と経営戦略部のミーティングが毎週開かれており、IRの場で投資家から出た新たな質問や要望は、基本的にスクリーニングを掛けることなく、市場の声としてそのまま伝達しています。

(2)が本記事の一番のポイントで、意識されていないIR担当者の方もいらっしゃるかと思います。
資本コストは株式コストと負債コストの加重平均(WACC)で求められるのが一般的で、将来キャッシュフローの割引率に適用されるWACCが低いほど、企業価値は増加します。
負債コストは有利子負債の平均利率なので分かりやすいですが、株式コストはキャッシュを伴うものではなく、算出にも様々なアプローチがあります。
その1つに、コーポレートファイナンスの教科書に必ず載っている資本資産価格モデル(Capital Asset Pricing Model, CAPM)があり、下記の関係式で表されます。

株式コスト(RE)=リスクフリーレート(RF)+ベータ(β)×(マーケットリスクプレミアム(RM)-リスクフリーレート(RF))

ベータ(β)は市場全体に対する当該個別株式の値動きやボラティリティを示す数値で、βが高いほど、当該株式はハイリスクハイリターンと認識され、株式コストも高くなってしまいます。
ベータ、ボラティリティを下げるには、株式市場を「必要以上に驚かせない」ことが非常に重要で、これがIR担当者の腕の見せ所になります。
株価のボラティリティを抑制できれば、株式コストやWACCが下がり、企業価値も高まる、という経路です。
高い企業価値を保った状態で公募増資や新株予約権発行といった資金調達ができれば、将来的な成長投資に充当できるキャッシュポジションも潤沢に有することができます。

情報開示の透明性を高め、投資家の方の予測精度を高めることに協力してサプライズを回避できれば、株価が急激に変動することは少なくなります。
もちろん、重要な未公開情報を伝えることはインサイダー取引につながりますので、聞かれたことにすべて答えればよいわけではありません。
自社の収益構造を事業セグメントやKPIに分解して示すことや、それぞれの業績要因が何によって変動するのか、どのような戦略や施策で改善しようとしているのか、ということを説明することが肝要となります。

ちなみに、じげんのベータ(計測期間1年)は経営戦略部が発足する直前の2016年2月末時点では1.4を超えていましたが、直近では機関投資家比率の向上や売買代金の増加に伴って流動性が増して株価形成も安定しているようで、ベータは1.3を下回って推移しています。経営戦略部はベータをKPIとして観測しており、今後も株式市場との円滑なコミュニケーションにより、資本コストを適正水準に保つことが目標です。

次の記事では、移ろいの激しい株式市場からの関心をつなぎとめるために陥りがちな、「バズワードの誘惑」についてお書きします。

株式会社じげん 寺田