上場インターネット企業の財務戦略の考察とじげんの新たな財務方針(前編)

こんにちは。じげんCFOの寺田です。

当社では、年間のキャッシュフローで資金余剰が生じた場合に、当該金額を半自動的に自己株式取得枠に充当する「新たな財務方針」を2019年5月に公表致しました。
本ブログにて2回に分けて、導入の背景や資金需要の発生規模別等のシミュレーションについて詳述したいと思います。

ー上場インターネット企業の保守的な財務戦略ー

「新たな財務方針」を公表して以来、投資家、アナリストの皆様とバランスシート(以下、B/S)のマネジメントについて議論を交わす機会が多々ありました。その中でよく話題に上がったのが、上場インターネット企業の『保守的』な財務戦略です。

革新的なサービスで既存産業に切り込んだり勃興期の市場に果敢に飛び込んだりと、新興プレイヤーとして成長を続けるために『攻め』の事業運営をしているイメージが強いインターネット企業に対して、『保守的』という評価は適当なのでしょうか?

数値で確認することとしましょう。

まず、以下の条件(データ取得日の2019年7月1日時点)で上場企業をスクリーニングすると、12社(注1)が該当しました。
なお、条件の設定理由は()内に示しています。

(1)業種: 情報・通信またはサービス (東証33業種分類にはインターネットという区分はなく、ネット企業の多くは左記2業種のいずれかに所属)
(2)上場年数: 3年以上10年以下 (上場後の財務諸表推移データを取得するため3年以上、成長期の企業に絞り込むため10年以下)
(3)時価総額: 250億円以上1兆円以下 (エクイティを活用した財務戦略の柔軟性が低い企業を除くため250億円以上、成長期の企業に絞り込むため1兆円以下)
(4)営業利益: 10億円以上 (損益が赤字または少額でバランスシートマネジメントの柔軟性が低い企業を除くため)
(5)インターネットサービスが主力事業ではない企業及びじげんを目視で除外

注1: アイスタイル、IBJ、アカツキ、イトクロ、エイチーム、エニグモ、オープンドア、クックパッド、Gunosy、KLab、グリー、コロプラの12社。

この12社を単純合算させたB/Sを図示すると、下記のようになります。

注2: 会計基準はIFRS(国際会計基準)と日本基準が混在しているが、合算バランスシートの表記は日本基準に統一。

B/Sの左側の借方に関しては、事業構造上オフィス関連やソフトウェア関連以外に設備投資が必要ないことからか、固定資産の金額は小さく、総資産の80%を流動資産が占めています。中でも現預金が総資産の66%と3分の2を占めていることが大きな特徴であり、キャッシュリッチな会社が多いことが分かります。右側の貸方に関しても、総資産に対しての自己資本比率が82%と、他の業種ではなかなかお目にかからない高水準に達しています。

興味深いのは、1年前からのバランスシートの変化です。12社合計の現預金の前年比増加額は277億円でしたが、これは前期の当期純利益実績273億円とほぼ同額となっています。つまり、営業活動から稼ぎ出した利益が、再投資や株主還元に回らず、ほぼ手つかずのキャッシュとしてB/Sに蓄積していると見ることもできます。

以上の集計では、損益が赤字または少額でB/Sマネジメントの柔軟性が低い企業が除かれているため、十分に利益が出ている企業だけが抽出対象となってはいますが、一般的には成長ステージとみなされがちな上場インターネット企業のB/Sマネジメントが保守的という指摘は、数値的な裏付けをある程度伴うものであることが分かります。

ー企業が資金を溜め込む2つの理由ー

上場インターネット企業が資金を溜め込む理由は主に2つと考えられます。

まずは単純に、再投資先がないこと。P/L(損益計算書)を通さずにB/Sを使う投資としては固定資産の取得が代表的ですが、インターネット企業は工場を建てたり不動産を買ったりすることはほとんどないため、ソフトウェアやのれんといった無形固定資産の取得や投資有価証券等の金融投資が主となります。これらは既存事業の業容拡大というよりは、新規開発やM&Aといった非連続なコーポレートアクションに関連して計上される性質のものであるため、経営戦略にそれらが内包されていない企業では、おのずと再投資先が限られてきます。

次に、再投資されず余剰となった分が株主還元に充てられていない点に関しては、少なからず心理的な抵抗があるものと推察されます。いつか大きな事業投資をするかもしれない…、景気が激変して固定費をまかなえなくなるかもしれない…、急遽大型のM&A案件が舞い込んでくるかもしれない…。「いつか」や「もしも」、「なにか」を想定して財務状態について万全を期しておくことは、1つの経営判断として自然なものでしょう。

ーバランスシートを動的にマネジメントする余地はないか?ー

しかし、必要以上に資金を溜め込むことは、安全性を高める一方で資本の効率性を毀損する可能性があります。もちろん、成長企業として資金不足によって投資機会を逸してしまうようなことは避けなければなりませんが、常にバランスシート上に大量の資金や資本を有していることがそのための唯一の解なのかというと、そうではないようにも思われます。

例えば、上記で抽出対象となった上場インターネット企業が有価証券報告書で開示している借入金の平均利率は軒並み0.5%未満となっています。世界的な低金利の影響を考慮しても、金融機関から財務の堅牢性やキャッシュフローの安定性をよく評価されて、低スプレッドでの負債調達が実現していることが分かります。また、上場企業はトップマネジメントのリソースを含む多大なコミュケーションコストをかけてIR活動を行っており、株式市場との関係構築に努めています。

つまり、キャッシュフローが安定している上場インターネット企業においては、外部環境の変化が多少あったとしてもデット、エクイティによる調達経路は確保されているものと考えられます。そうであれば、必ずしもバランスシートを静的に捉えて常に余剰資金を抱えておくのではなく、必要な時に必要な調達を動的に行うようマネジメントする余地もあるのではないでしょうか。

前置きが長くなってしまいましたが、当社の「新たな財務方針」は以上のような考えに基づくものです。
後編の記事では、想定される場面別の「新たな財務方針」の運用についてご紹介します。

何卒宜しくお願い致します。

株式会社じげん
取締役執行役員CFO
寺田修輔